シリーズ:アラブビジネス文化入門 第2回 時間感覚と交渉スタイル
- Musa M., Ph.D.

- 10月22日
- 読了時間: 3分
― スケジュールよりも信頼が動かすビジネス ―
本シリーズ「アラブビジネス文化入門」では、アラブ諸国でのビジネスを成功させるために知っておきたい文化的背景、価値観、交渉スタイルなどを、全5回にわたり紹介していきます。第2回のテーマは「時間感覚と交渉スタイル」です。
日本のビジネスでは、時間を守ることが信頼の証とされます。
約束の時間を守り、期限を厳守することが「誠実さ」を示す行為です。
しかし、アラブ世界では少し違った形で信頼が示されます。
会議が予定より遅れて始まったり、途中で話題が脱線したりしても、それは怠慢ではありません。むしろ、「相手との関係を大切にしている」というサインです。アラブでは、時間は人が使うものであって、人に使われるものではないのです。
「Inshallah」に見る時間の柔軟さ
アラブの人々が日常的に使う言葉に「Inshallah(インシャーアッラー)」があります。
「もし神が望めば」という意味ですが、実際には「予定はあるが確定ではない」というニュアンスを含んでいます。
ビジネスの場でも同じで、予定や約束には“余白”が存在します。
スケジュールが変更になったり、返答に時間がかかったりしても、それは信頼の欠如ではなく、むしろ関係を壊さないための配慮なのです。
この背景には、
家族や組織などの集団を重んじる社会構造
状況に応じて柔軟に判断する現実主義的な思考
「すべては神の御心に委ねられている」という宗教的価値観
といった文化的要素があります。
アラブ社会では、「計画通り進まないこと」も想定内です。重要なのは予定そのものではなく、状況に合わせて最善を尽くすことなのです。
交渉スタイル:結論よりも関係が先に来る
日本の交渉は、事前に資料を整え、会議で合意を取り、契約へと進む「順序型」です。
一方、アラブの交渉は「対話型」です。まずは相手を知り、信頼を築き、その上で合意が生まれます。
したがって、アラブのビジネス現場では次のようなことがよくあります。
会話が長くても焦らない。
形式的な議題から外れても、そこに本音が隠れている。
雑談や冗談が、契約書よりも強い絆を作る。
アラブの交渉は、論理で相手を説得する場ではなく、人間関係を確認する場でもあります。
たとえ結論がすぐに出なくても、「この人となら話を続けたい」と思われることが最も大切です。
日本企業へのヒント:時間に「余白」を持つ戦略
アラブ諸国でビジネスを進める際、日本企業が覚えておくと良いポイントがあります。
① スケジュールを詰めすぎない
現地では予定が変わることを前提に行動します。余裕を持ったスケジュール設計が、結果的に信頼を得る近道です。
② 関係構築の時間を「仕事」として考える
会議の前後のお茶、昼食の時間、軽い雑談は、すべて交渉の一部です。
その時間を「ムダ」と思わず、むしろ人間関係への投資と捉えることが成功の鍵です。
③ 「柔軟=いい加減」と決めつけない
予定を変えたり、判断を保留したりするのは、相手を軽視しているからではありません。
信頼関係があってこそ、臨機応変な対応ができるという考え方が根底にあります。
リズムの違いを理解する
アラブの時間は「効率」ではなく「関係」を測るもの。
日本的な正確さとアラブ的な柔軟さは、相反するものではなく、むしろ補い合える価値観です。
日本人が持つ計画性と責任感、アラブ人が持つ柔軟性と人間味。
この二つのリズムを理解し、尊重し合うことができれば、より深く、長期的なビジネスパートナーシップを築くことができるでしょう。




