講師プロファイル
モハンマド ファトヒー博士
エジプト・アインシャムス国立大学ドイツ語学科卒業。東京外国語大学博士(言語学)号取得。現在、外務省研修所、アジア・アフリカ語学院など各所でアラビア語講師、大東文化大学、東京経済大学、獨協大学、立正大学など各所で英語及びクロスカルチャコミュニケーション講師を務める。他、国際会議通訳、アラブ諸国要人アテンド通訳、映画字幕翻訳を行う。主な字幕翻訳作品に『ALWAYS三丁目の夕日』他多数。
著書に『単語でカンタン! 旅行アラビア語会話』など
アラビア語の学習を検討中の方、アラビア語レッスンで受けたい方は、是非次のアラビア語についての情報をお読み下さい。
アラビア語ってどんなことば?
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アラビア語とアラブ人
アラビア語は、中東や北アフリカを中心に、27ヶ国で使われている言語です。アラブ人とは、厳密に言えば、アラブ半島出身の者ですが、現在では、アラビア語を母語とする者のことをいいます。
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アラビア語とイスラム
アラビア語は、もともとアラブ半島で話されていたが、イスラム教の出現と拡大に伴って、北アフリカにまで使用地域が広がり、現在まで使われています。
イスラム教の聖典であるクルアーン(日本語でコーランとも言う)は、イスラム教の出現当時に用いられていたアラビア語、いわゆる古典アラビア語で書かれています。
イスラム教徒(ムスリム)は、イスラムを伝えるために、アッラー(唯一の神様)が(アラビア語を選んだと信じ、アラビア語を、『神の言葉』と呼んでいます。
《われは、アラビア語のクルアーンを下した。恐らくあなたがたは悟るであろう。》
(クルアーンのユースフ章第2節より)
また、審判の言葉や楽園に入る人々の言葉でもあり、最高の言語です。(この世でアラビア語を母語としない人でもアラビア語で話すようです。)
※神の言葉でアラビア語は、現在話し言葉として使われるアラビア語ではないのでご注意下さい。
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アラビア語の二重言語性
アラビア語には、フスハー(文語)とアンミーヤ(口語)があり、母語話者は両者を併用している。
日本語の「標準語」は、ある一つの方言(東京弁)を基本としているが、アラビア語のフスハー(文語)は、どこかの方言ではなく、7世紀に用いられたアラビア語(正規語/フスハー)を基本に、文章を書くとき、使われる。一方、会話には、アンミーヤ(口語)が使われる。アラブ人は、自分の方言とフスハーの二つのアラビア語ができ、また、場面などに応じて、使い分けている。この社会的な言語状態は、二重言語性(Diglossia/ダイグロシア)と呼ばれる。
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フスハーとその使用状況
フスハーは7世紀に用いられたアラビア語(メッカ―の部族の方言なのか?)であり、アッラー(唯一の神様)の使徒及び預言者のムハンマド(マホメット、モハメドなどとも言う)がいたヒジャーズ地方のアラビア語方言であると考えられる。現在、7世紀のアラビア語を母語とする人がいませんが、7世紀のアラビア語を基盤にし、新しい語彙や用法などを取り入れた、教育、報道、文学著作などの公的な領域で用いられる現代フスハーあるいは現代標準アラビア語(Modern Standard Arabic, MSA)が使用されています。
アラビア語母語話者は、学校の国語の授業でこの現代標準アラビア語を身に付けます。 フスハーの文法を学習しなくても、フスハーで書かれた文章を読んで理解できるが、フスハーの文法の知識なしで、文章を書くことや音読することができません。クルアーンを読むのに、やはりフスハーの文法を学習しなければなりません。
アラブ人は、フスハーを使って話すことがほとんどないため、フスハーで話すと、文法的な間違いなどを起こしてしまいます。この間違いに気づくのは、基本的にアラビア語を専門にしている人ぐらいで、一般の人は、普通気づきません。基本的にフスハーで行われる大統領や大臣レベルのスピーチは、間違いがもちろんよく見られますが、ほとんど気づかれず、非批判の対象になりません。
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アンミーヤとその使用状況
アンミーヤは、国や地域によって異なりますが、大きく6つに分けることができます。
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エジプト (エジプト)
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マグリブ (リビア、モロッコ等)
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その他 (イエメン、スーダン モーリタニア)
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レバント(レバノン、シリア等)
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イラク (次の湾岸方言の下位分類という考え方もあり)
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湾岸 (サウジ、UAE等)
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方言の異なるアラブ人同士がアラビア語で話すときに使う方言は?
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別の地域出身のアラブ人同士が話すときに、
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自分の方言で話す
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相手の方言で話す
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(中間的な)フスハーで話す
最も多いパターンは上の1で、困ったとき、3の(中間的な)フスハーで話します。その際に使われるアラビア語は、完璧なフスハーではなく、古めかしさをなくした言語、あるいは、地域的な語彙や発音をフスハーの語彙や発音に入れ替えた中間的なアラビア語である。こういう話し方は、「中間アラビア語(inter-Arabic)」と呼ばれます。一般の人の間には、「白い言語」とも呼ばれるようです。
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中間的アラビア語
フスハーで話さなければならない状況に置かれたアラブ人(例えば、政治家、評論家など)は、フスハーが得意な人でなければ、完璧なフスハーではなく、語尾変化などを無くし、いわゆる中間的なアラビア語で話します。例えば、
<これはコーヒーです。>
(フスハー) haadhihi qahwatun
(完璧でないフスハー)haadhihi qahwah
<コーヒーを飲みたい>
(フスハー) ‘uriidu ‘an ‘ashraba qahwatan
(完璧でないフスハー) ‘uriid (‘an) ‘asharab qahwah
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フスハーかアーンミヤか、どちらを学ぶべき?
通常の授業や教科書では、完璧なフスハー(文語)を対象とするが、やはり、細かい文法の規則などが多いため、進展が遅い。また、この規則をマスターしたとしても、実際の会話に使われることがあまりないため、実際に、使う機会がなかなかありません。コミュニケーション重視の語学学習をしたい方は、フスハーでスタートし、アーンミヤに転じ、学習を続けた方がいい。最初からアーンミヤでもいい。
学習者視点からフスハーとアーンミヤを比較しみましょう。
観点 | フスハー(文語) | アーンミヤ(口語) |
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アラブ人のレベル | ネイティブレベルに達していない*(1) | ネイティブ |
(話す)アラブ人への負担 | かなり多い*(2) | 全くない*(3) |
学習の進展 | かなり遅い*(4) | かなり速い*(5) |
日常生活で話す機会 | 少ない*(6) | 高い*(7) |
日常生活で耳にする機会 | 極め少ない(テレビの一部のニュース番組や時代劇など) | 非常に多くあらゆる場面で耳にする |
テキストブック及び教材 | 数多くバラエティ豊富 | 数少なく、殆どない方言あり |
(1) リスニングとリーディングは問題なくできるが、スピーキングやライティングの場合、学校の国語授業以外、自己学習が必要になり、自己学習及びトレーニングしていない人は、基本的にレベルが低い。
(2) フスハーで話すのに慣れておらず、コーランの言葉で間違った使い方を避けたいから
(3) 日常的に使っているから
(4) 自然なコミュニケーションに使う機会が極めて少ないから
(5) 自然なコミュニケーションができるから
(6) 方言ができなければ、使って話すことができるが、相手はアーンミヤで返事する確率が高い
(7) 日常生活における会話では、アーンミヤしか使われない。
アラビア語の学習を考えている方には、対象となるアラブの国や方言が決まっていれば、できれば、その方言を学習した方がいい。対象となるアラブの国や方言が決まっていない場合、また学習したい方言の教材などがない場合、中間的なアラビア語で始めることをお勧めします。
アラビア語の学習にご興味のある方、またアラビア語を既に学習している方向けに、個別のカウンセリングを無料で承ります。カウンセリング申し込みをご希望の方はフォームよりお申し込み下さい。